雪白の月

act 3


―何が起こった…? そうだ…西脇から無線が入った時に爆発が… 基寿!!―


石川は爆破の衝撃で虚ろになっていた意識を何とか保つことに成功した。
ぼやけた視界では周りがよく見えないが、岩瀬の腕の中に自分がいることだけは判る…

「…岩瀬… 大丈夫か…?」

何時もなら直ぐにでも返事をくれる相手の反応が無い…石川は一気に血の気が引く。
そして手探りで岩瀬の首筋を探し当て、脈を探す。そこで石川は少しだけホッとした… 
脈があったのだ。


―気絶しているのか…?―


もう一度岩瀬の名前を呼ぶ。

「…岩瀬… …岩瀬… もとひさ…?」

やはり答えがない…。
石川は爆破で舞い上がった土ぼこりの中、必死で岩瀬の名前を呼び続ける…
もう周りは目に入っていなかった


そうしているうちに、西脇や隊員が駆けつけた

「隊長! 岩瀬! 返事を!!」
「隊長! 岩瀬さん!無事ですか!」

その声を聞き、やっと石川の意識が周りに向けられる

「西脇! こっちだ! 早くDrに連絡を! 岩瀬が…」

石川の切羽詰った声を聞き西脇が駆け寄る― 
そこには青ざめた石川とグッタリとした岩瀬の姿があった…

「隊長 岩瀬! …隊長は無事ですか?」
「あぁ… それより岩瀬が…」
「今 Drと担架が来ます。落ち着いてください! 岩瀬は大丈夫です。今までそうだったでしょう?」

西脇は石川の肩を掴んでそう言った。
そこでやっと石川が何時もの落ち着きを取り戻す。

「…ゴメン…」

一言、西脇に聞き取れるぐらいの声で呟き…顔を上げた石川は『隊長』の顔に戻っていた 。
西脇に無線を借り、石川は次々と指示を出す。

「まだ爆弾がある可能性が高い。手の空いている隊員でW・Sゲートを中心に捜索を!」
「野田、解析結果を警察に。 それと内藤さんに連絡を。 官邸の方も爆弾が仕掛けられている可能性が高い。」

その様子を見て西脇はホッとする。
そうしていると橋爪が担架を持って駆けつけた。

「隊長! 大丈夫ですか? 岩瀬は…」

橋爪は意識がなくグッタリとしている岩瀬を見て、一瞬険しい表情をした が、すぐにテキパキと診察する…

「Dr…岩瀬は…」
「…目立った外傷もないですし、意識が戻らないことには…すぐに検査を。それと隊長貴方も検査を。 貴方も爆破に巻き込まれているんですよ!」

橋爪は石川の顔を真っ直ぐに見て、そう言った。 石川は橋爪の顔を見て…

「…今はムリだ…」
「ですが!」
「…終われば、行くから…」
「…解りました…。ですが、少しでもおかしいと感じたら直ぐに来てください! お願いします。西脇さん…」
「あぁ…。」
「…隊長… 岩瀬は大丈夫です。 直ぐに目を覚ましますよ…」

その言葉はDrとしてだけでなく、友人としての励ましの言葉だった

「…そうだな… 岩瀬を頼む…」

石川は橋爪を見てそう頼んだ

「はい 任せてください。」

そういい残し橋爪は岩瀬の後を追う…
その姿を石川は無言で見送り… 

一瞬目を閉じる その姿はまるで祈るようで…
そして、皆に指示を出しながら自分も捜索に加わった 西脇はそんな石川の姿を痛々しそうに見て…石川の後に続いた。



空には月が輝いていた―








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